婦人科 / 月経・排卵障害
月経不順の代表的な原因。妊娠を希望しない方にも、長期的なケアが大切な疾患です。
- 月経が39日以上来ない、または年に数回しかない(希発月経・無月経)
- 思春期から月経不順が続いている
- ニキビが治りにくい・繰り返す(特に顎まわり・頬)
- 体重が増えやすい、または急激な体重増加後に月経不順になった
- 妊活を始めたがなかなか妊娠しない
- 超音波検査で「卵巣に多数の小さな卵胞がある」と言われたことがある
正常な月経周期では、卵胞が成熟してエストロゲンを分泌し、LHサージを経て排卵が起きます。PCOSでは、LH(黄体形成ホルモン)の過剰分泌やインスリン抵抗性によってアンドロゲン(男性ホルモン)が増加し、卵胞が途中で発育を止めてしまいます。多数の小さな卵胞が卵巣の縁に並ぶ「ネックレスサイン」が超音波で見られるのが特徴です。
欧米と異なり、日本人では非肥満型が約70%を占めます。多毛・肥満などの男性化徴候が少なく、体型が標準でもPCOSであることがあります。体型だけで「自分は違う」と思い込まないことが大切です。
完全には解明されていませんが、視床下部—下垂体—卵巣系のホルモン調節の乱れと、インスリン抵抗性(インスリンが効きにくい状態)が複合的に関与していると考えられています。遺伝的素因もあります。
PCOSは完全に「治る」疾患ではありませんが、治療によって症状をコントロールし、合併症リスクを下げることができます。妊娠を希望する方には排卵誘発が有効で、多くの方が妊娠できます。
日本産科婦人科学会の診断基準(2024年改定)では、以下の3項目すべてを満たすものをPCOSとします。
希発月経・無月経・無排卵。月経が年6〜8回未満になることが多い。出血があっても無排卵のことがある。
排卵がなくプロゲステロンが分泌されないと、子宮内膜がエストロゲンだけで刺激され続け、子宮内膜増殖症・子宮体がんのリスクが高まります。定期的に月経をつくる治療が重要です。
インスリン抵抗性を伴うことが多く、肥満合併例では40歳までに約35%が耐糖能障害(前糖尿病)、約10%が2型糖尿病を発症するとされます。脂質異常症・心血管疾患のリスクも高まります。
アンドロゲン過剰によるニキビ(特に顎・頬周囲)、多毛(顔・腹部など)、頭皮の脱毛が起こることがあります。日本人では欧米より軽症な場合が多いです。
排卵が不規則なため妊娠に時間がかかります。ただし、適切な排卵誘発治療で多くの方が妊娠できます。
うつ・不安傾向が一般女性よりも多く見られます。睡眠時無呼吸症候群との関連も指摘されています。体の症状だけでなく心の状態にも目を向けることが大切です。
PCOSの治療は、妊娠を希望するかどうかによってアプローチが異なります。いずれの場合も「今の症状を和らげる」だけでなく「長期的な健康を守る」視点が重要です。
妊娠を希望しない方
低用量ピル(OC/LEP)
月経周期を整え、LH高値を改善し、子宮内膜が厚くなりすぎるのを防ぎます。ニキビ・多毛の改善にも有効。月経痛など症状がある場合は保険適用となります。
プロゲステロン周期投与
2〜3ヶ月に1回、プロゲステロン製剤を10〜14日間服用して消退出血を起こし、子宮内膜を定期的にリセットします。子宮体がんリスクを低減するために重要です。
生活習慣の改善
肥満を伴う場合、体重の5〜10%の減量で月経が改善することがあります。食事・運動による体重管理はインスリン抵抗性の改善にも直結します。
メトホルミン
耐糖能異常・インスリン抵抗性が強い場合に考慮します。月経周期の改善に一定の効果がありますが、第一選択はホルモン療法です。
妊娠を希望する方
生活習慣改善(肥満がある場合まず減量)
わずかな減量でも自然排卵が回復することがあり、排卵誘発剤の効果も高まります。
レトロゾール(第一選択)
アロマターゼ阻害薬。PCOSの排卵誘発では現在の標準的第一選択薬で、クロミフェンより妊娠率・出生率が高いとされます(特に肥満例)。
クロミフェン
内服の排卵誘発剤。排卵率約50%、妊娠率約10〜20%。子宮内膜が薄くなる副作用が出る場合があります。
ゴナドトロピン療法(注射)
内服薬で効果がない場合の選択肢。PCOSでは卵巣過剰刺激症候群(OHSS)のリスクが高く、多胎妊娠のリスクもあるため慎重な管理が必要です。
体外受精(ART)へのステップアップ
内服薬で妊娠に至らない場合、単胎妊娠を確実にするためにも体外受精が選択肢となります。PCOSでは採卵数が多く、1個ずつ胚移植する管理が特に適しています。
PCOSは閉経後もアンドロゲン値が高い状態が続くことがあり、生涯を通じて代謝・心血管リスクへの注意が必要です。「今は妊娠を考えていないから放っておいていい」ではなく、定期的な受診・検査(超音波・採血)で子宮内膜の状態と代謝異常をモニタリングすることをおすすめします。
うつ・不安などメンタルヘルスの問題を抱えている方も少なくありません。気になることがあれば遠慮なくご相談ください。


