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多のう胞性卵巣症候群

婦人科 / 月経・排卵障害

多嚢胞性卵巣症候群(PCOS)

月経不順の代表的な原因。妊娠を希望しない方にも、長期的なケアが大切な疾患です。

多嚢胞性卵巣症候群(PCOS:Polycystic Ovary Syndrome)は、生殖年齢女性の約5〜10%に見られる、排卵障害を主体とする疾患です。卵巣内に多数の小さな卵胞が発育途中で止まり、月経不順・無月経・排卵障害を引き起こします。妊娠を希望する方の不妊原因としてよく知られていますが、妊娠を希望しない方にとっても、子宮体がんリスクや代謝異常の観点から長期的な管理が重要な疾患です。

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こんな症状・状況に心当たりはありますか?
  • 月経が39日以上来ない、または年に数回しかない(希発月経・無月経)
  • 思春期から月経不順が続いている
  • ニキビが治りにくい・繰り返す(特に顎まわり・頬)
  • 体重が増えやすい、または急激な体重増加後に月経不順になった
  • 妊活を始めたがなかなか妊娠しない
  • 超音波検査で「卵巣に多数の小さな卵胞がある」と言われたことがある
1つでも当てはまる方は、PCOSを含む排卵障害の可能性があります。妊娠を希望しない方でも、長期的な健康管理のために早めに受診されることをおすすめします。

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PCOSとはどのような疾患か

正常な月経周期では、卵胞が成熟してエストロゲンを分泌し、LHサージを経て排卵が起きます。PCOSでは、LH(黄体形成ホルモン)の過剰分泌やインスリン抵抗性によってアンドロゲン(男性ホルモン)が増加し、卵胞が途中で発育を止めてしまいます。多数の小さな卵胞が卵巣の縁に並ぶ「ネックレスサイン」が超音波で見られるのが特徴です。

日本人PCOSの特徴

欧米と異なり、日本人では非肥満型が約70%を占めます。多毛・肥満などの男性化徴候が少なく、体型が標準でもPCOSであることがあります。体型だけで「自分は違う」と思い込まないことが大切です。

根本的な原因

完全には解明されていませんが、視床下部—下垂体—卵巣系のホルモン調節の乱れと、インスリン抵抗性(インスリンが効きにくい状態)が複合的に関与していると考えられています。遺伝的素因もあります。

PCOSは「治る」のか

PCOSは完全に「治る」疾患ではありませんが、治療によって症状をコントロールし、合併症リスクを下げることができます。妊娠を希望する方には排卵誘発が有効で、多くの方が妊娠できます。

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診断の流れ

日本産科婦人科学会の診断基準(2024年改定)では、以下の3項目すべてを満たすものをPCOSとします。

日本産科婦人科学会 PCOS診断基準(2024)— 3項目すべてを満たすこと
1
月経周期異常

無月経・希発月経(月経周期39日以上)・無排卵周期症のいずれか

2
多嚢胞卵巣所見

超音波で両側卵巣に2〜9mmの小卵胞が多数(ネックレスサイン)。または AMH高値でも代替可能(2024年改定より)

3
アンドロゲン過剰症またはLH高値

血中テストステロン高値、または男性型多毛(mFGスコア≧6)。あるいはLH基礎値高値かつFSH基礎値正常(2024年改定でアンドロゲン過剰症を追加)

クッシング症候群・先天性副腎過形成・高プロラクチン血症・甲状腺疾患など、類似した症状を引き起こす他の疾患を除外することも診断に必要です。超音波検査だけでなく血液検査(ホルモン採血)を組み合わせて確定診断します。

⚠️
PCOSで起こりうること・気をつけたいこと
月経・排卵の異常

希発月経・無月経・無排卵。月経が年6〜8回未満になることが多い。出血があっても無排卵のことがある。

子宮体がんリスク

排卵がなくプロゲステロンが分泌されないと、子宮内膜がエストロゲンだけで刺激され続け、子宮内膜増殖症・子宮体がんのリスクが高まります。定期的に月経をつくる治療が重要です。

代謝異常・糖尿病リスク

インスリン抵抗性を伴うことが多く、肥満合併例では40歳までに約35%が耐糖能障害(前糖尿病)、約10%が2型糖尿病を発症するとされます。脂質異常症・心血管疾患のリスクも高まります。

皮膚・体毛の変化

アンドロゲン過剰によるニキビ(特に顎・頬周囲)、多毛(顔・腹部など)、頭皮の脱毛が起こることがあります。日本人では欧米より軽症な場合が多いです。

不妊

排卵が不規則なため妊娠に時間がかかります。ただし、適切な排卵誘発治療で多くの方が妊娠できます。

精神的な影響

うつ・不安傾向が一般女性よりも多く見られます。睡眠時無呼吸症候群との関連も指摘されています。体の症状だけでなく心の状態にも目を向けることが大切です。

💊
治療の考え方

PCOSの治療は、妊娠を希望するかどうかによってアプローチが異なります。いずれの場合も「今の症状を和らげる」だけでなく「長期的な健康を守る」視点が重要です。

妊娠を希望しない方

月経周期の管理・合併症予防が中心

低用量ピル(OC/LEP)

月経周期を整え、LH高値を改善し、子宮内膜が厚くなりすぎるのを防ぎます。ニキビ・多毛の改善にも有効。月経痛など症状がある場合は保険適用となります。

プロゲステロン周期投与

2〜3ヶ月に1回、プロゲステロン製剤を10〜14日間服用して消退出血を起こし、子宮内膜を定期的にリセットします。子宮体がんリスクを低減するために重要です。

生活習慣の改善

肥満を伴う場合、体重の5〜10%の減量で月経が改善することがあります。食事・運動による体重管理はインスリン抵抗性の改善にも直結します。

メトホルミン

耐糖能異常・インスリン抵抗性が強い場合に考慮します。月経周期の改善に一定の効果がありますが、第一選択はホルモン療法です。

妊娠を希望する方

排卵誘発が中心、段階的にステップアップ

生活習慣改善(肥満がある場合まず減量)

わずかな減量でも自然排卵が回復することがあり、排卵誘発剤の効果も高まります。

レトロゾール(第一選択)

アロマターゼ阻害薬。PCOSの排卵誘発では現在の標準的第一選択薬で、クロミフェンより妊娠率・出生率が高いとされます(特に肥満例)。

クロミフェン

内服の排卵誘発剤。排卵率約50%、妊娠率約10〜20%。子宮内膜が薄くなる副作用が出る場合があります。

ゴナドトロピン療法(注射)

内服薬で効果がない場合の選択肢。PCOSでは卵巣過剰刺激症候群(OHSS)のリスクが高く、多胎妊娠のリスクもあるため慎重な管理が必要です。

体外受精(ART)へのステップアップ

内服薬で妊娠に至らない場合、単胎妊娠を確実にするためにも体外受精が選択肢となります。PCOSでは採卵数が多く、1個ずつ胚移植する管理が特に適しています。

OHSSについて:PCOSでは多数の卵胞が同時に発育しやすく、排卵誘発剤に強く反応して腹水・胸水が溜まる卵巣過剰刺激症候群(OHSS)を起こすリスクがあります。注射による誘発では特に注意が必要で、丁寧な経過観察のもとで治療を行います。

PCOSは長期にわたる管理が大切です

PCOSは閉経後もアンドロゲン値が高い状態が続くことがあり、生涯を通じて代謝・心血管リスクへの注意が必要です。「今は妊娠を考えていないから放っておいていい」ではなく、定期的な受診・検査(超音波・採血)で子宮内膜の状態と代謝異常をモニタリングすることをおすすめします。

うつ・不安などメンタルヘルスの問題を抱えている方も少なくありません。気になることがあれば遠慮なくご相談ください。

💬
よくあるご質問
妊娠を全く考えていないのに受診・治療する意味はありますか?
あります。月経が来ない状態が続くと子宮内膜が増殖し、将来的に子宮体がんのリスクが高まります。また、インスリン抵抗性・代謝異常が進行することもあります。定期的な月経をつくる治療(ピルやプロゲステロン投与)は、将来の健康を守るためのものです。
痩せているのにPCOSと診断されました。なぜですか?
日本人のPCOSは肥満でないケースが約70%を占めます。体型と関係なく、ホルモンバランスや卵巣の状態でPCOSが起こります。「太っていないから違う」と思い込まず、月経不順がある場合はきちんと検査を受けることが重要です。
ピルを飲んでいれば月経が来るのに、飲むのをやめると月経が止まります。これは治っていないのですか?
その通りで、ピルは症状を「コントロール」するものであり、PCOSが「治癒」したわけではありません。ただしそれで構いません。ピルで月経を維持することで子宮内膜を守り続けることができます。妊娠を希望する時期が来たら、排卵誘発に切り替えていきます。
PCOSだと妊娠できないのですか?
PCOSは不妊の原因になりますが、適切な排卵誘発治療によって多くの方が妊娠できます。また、PCOSでは卵巣予備能(卵子の数のめやすとなるAMH値)が高いことも多く、体外受精では採卵数が多く確保できることがあります。

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